無線営業回想録2
    東京無線AVM 初級編

無線営業回想録1の続編

「なんだ。そんな事も知らずにAVMに乗ってんのか?」

20才くらい年上の相番の見下した罵声に怯む事なく、即座に言い返した。

「そんな事もどんな事も分からないので教えてください。 」

正直、何にも分からない訳ですし、20才も年上の人に対して頭を下げるくらいなんて事ない。


余談ですが、この相番の先輩、、、、


現在も付き合いがあります。


現在は他団体に所属してますが、今では同じ個人タクシー事業者だ。
そんな事より、気がついたら当時の彼の年齢を越えていた事に、いま気がつきショックを受けた。


当時から気がついてはいたが、彼の特徴は色々と私に似ている。

違いがあるとすれば私が将棋派に対し、彼は囲碁派

似てるようたが、似て非なる格闘技で性格にも反映される。


将棋は局地戦術一点撃破主義

囲碁は全体を面で捉え、壮大な戦略で面を掌握する。

全然違う。


最大の違いは彼の経済力

彼は個人タクシー事業者でありながら、某自治体指定の元請け会社を経営し、
決済以外の労働は全て職員に回させている。 つまり何の労働もしない。


会社自体も孫受けに働かせて、利益を貪る正に支配階級だ。


個人タクシー事業者が消費税を収めなければならなくなる売上以上の年収(税引き)があり、
明らかに人生の勝者なのは間違いない。
個人タクシー事業者の仮面を被った不労所得の達人でもある。


どこについて行っても、 「好きなもん頼めよ」 タイプ

そんな彼が何故に個人タクシーをやってるか?


敷地が数百坪ある本宅に居る日より、無線を追っかけてる日の方が多い事を普通の人は理解できないだろうが、私には理解できる。
気が向いたら夜間に無線を取りにやってくる彼の習性を、、、、


無線を取りに来ると他は何もやらない。

人目を避けるように回送表示で停車しているだけだ。

他にやるとすればテレビを見るか、電話してるか赤鉛筆で新聞に記しをつけたりしてはいる。


明らかに無線配車までの過程と結果を楽しんでいるのだが、 世間様から見れば相当な怠け者にしか見えないだろう。


悠々自適の極めつけと言える彼の実像を、 狭い人生経験からしか想像できない凡人に理解できなくても当然だが、彼も全くの第三者に理解される事に興味はない。


彼にしてみれば無線はくじ引きに似たギャンブルみたいなもんで、 くじ引きを楽しむ為に700万の車で夜の街の人目のつかない所に出てくるのだ。


我々の業界

法人個人を問わず、運転しなくても何不自由なく暮らせるのに仕事してる人間を多数知っているが、 私が知る限り、総合点で彼が上限なのは間違いない。
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そんな先輩と相番になった事は、私にとって大きな転機だった。


あのな。


無線機のスピーカーの上にある赤いランプが光る時があるだろう。

あの瞬間に、1809は意志表示しているんだ。





意志表示?

このおっさんはアホか?


と、一瞬思ったものの、よくよく聴くと、あの赤いランプが光る瞬間に1809は電波を発射しているとの事だった。

つまり、応答、了解信号等の電波発射時に加え、動態を基地局に知らせる為にボーリングされた瞬間、
自動で電波を発射したタイミングで赤く発光した。


夜間無線配車を受けるには、エリアに入って最も滞留時間が短い車両が配車対象だ。

配車されるにはエリアに入ってボーリングされる直前の滞留時間が短い車が有利となる。

この事についても指導された。


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ボーリング  (新人教育の時に習っていたらしい)

各移動局は定期的に動態を基地局に自動で送信して知らせるが、この基地局から、「知らせろ。」と電波を自動で発射して、
移動局から自動返信を促す行為が、オートボーリング

1つの波を5秒ごとにボーリングするが、一回に10台づつボーリングする。 例えば1801から1810までの10台が同じ5秒枠のボーリングに引っかかり、自動で動態を知らせている。


相番
1809の一波は何台だ?



640台です。


5秒間隔で10台づつ、ボーリングしたら何分かかる?

5分20秒です。

そうだ。この事を意識しろ。

一回、ボーリングされたら最短でも5分20秒しないと次のボーリングはない。

また、オペレーターがマイクで喋るとその分ボーリングされるまでの時間は伸びるが、 その辺は感で計って再ボーリングされる前にエンジンキーをセルまで一瞬回し、無線機をリセットさせるんだ。

すると何度でもエリア内で最短時間の滞留時間で登録を繰り返せる訳だから、チャンスが広がる。


相番
わかったか?



はい。


相番
ただし、待ってるエリア内からお客からオーダーが入らなければ全く意味がないからな。
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いやー。とんでもないありがた情報だと思った。


この事を聴くまではエリアに入っても何もせずに止まっていた。アホ面で!


そんなんじゃあ永久に配車にならないのは当たり前だった。

仕組みを知る知らないでは雲泥の差なんだと改めて思いました。


楽しみにしながら次の出番は出た。
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楽しみにしながら次の出番は出た。


エリア配車の開始時間からは臨戦態勢を整え、言われた通りにした。

とりあえずリセットの精度が未熟なのであまり人気のないライバルが少ない市ヶ谷や四ッ谷エリアに布陣した。



そろそろボーリングかな?


よし。 リセット。と、繰り返してると配車になる。


面しろ過ぎた。



スロットやパチンコの必勝法を知った時みたいな衝撃だった。
ちなみに無線を覚えてから、全てのギャンブルから手を引いたのはこの頃だ。


そんくらいに面白かった。



市ヶ谷エリア

神楽坂、水道橋、飯田橋、九段、麹町、等を網羅する市ヶ谷エリアで展開する事は相番に薦められた。
(来年2月に廃止になる東個協市ヶ谷エリアに似た広さ)

相番のスタートエリアでもあり、市ヶ谷エリアの外側はエリアがないので、応答モード
それらも取れれば、 「エリア配車以外にも手が出せるので、その分チャンスが広がる。」 が、彼の持論だった。
市ヶ谷エリアを基軸に本郷、巣鴨、護国寺までの不忍池通りラインの内側は射程県内だったらしく、 圏内の配車がよくある場所や時間帯や行き先等を色々と相番から予習できてた事も市ヶ谷を選んだ理由だった。


相番が市ヶ谷で無線をよく取るからか、私が乗ってもよく取れた。


オペレーターは誰が乗ってる。とか、乗務員までは区別がつかない。
配車になっても、他の車では進行先の道順を誘導してるのに、1809だと誘導をしてもらえなかった事が多かっ た事も、相番の乗る1809が、市ヶ谷付近で無線をよく取ってた実績から信頼を得ていたのだろうと推察できた。



例えば

他局の1915の場合


オペ
1915は白山通り西片から農学部に向かい、2本目の路地を左、突き当たりを右、さらに一本目を右


てな感じの最後に


15メートル先右側の「信越化学本郷クラブ」 盛田様

1915どうぞ



なんて具合なのが普通

しかし、1809の場合だと、



オペ
1809  1809は信越化学本郷クラブ 盛田様 どうぞ



てな感じで、即配車先案内で全く誘導なし

まぁー。長々と分かりきった誘導を聞くのも面倒なので、これはこれで良かった。
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東京無線

1回の出番


1 段階
朝から夕方までの応答モードの部


2 段階
ボーリング配車の始まる20時から零時までの部


3 段階
零時から最終までの部


私的には以上、三段階に仕分けしていたが、市ヶ谷での展開は2段階の前半に出没する私の活動域だったが、 問題は3段階だった。
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深夜帯になると、無線各車が都心部の人気エリアに集まってくる。

一番人気は虎ノ門エリア

霞ヶ関の官庁街や谷町の報道関係の配車先が多数存在する人気エリア

深夜でも安定してオーダーが入るので、配車になる可能性ガ高い事も評価できた。

ここで一回から二回の配車を受けて、1日の売り上げを仕上げる事が、無線車のパターンだと言ってもよかった。


しかし、待機台数が多いと、争奪戦は熾烈を極めた。

教わった通り5分20秒を過ぎたころから無線機をリセットさせての登録を繰り返すが、 オペレーターが長く話すと、
その分の時間が伸びて、なかなかタイミングよくリセットできない。


赤く光る瞬間のちょこっと前にリセットしたいのだが、難しい。

零時台の繁忙期は5台口とか、10台口とかの台数口が多数出たので、案外と簡単に配車にはなったが、
深夜一時を回って、皆が集まりだすと大変だった 。


リセット方法の精度をさらに向上させないと、人気エリアに展開する各社を代表するような猛者共には到底太刀打ちできないと悟る。


ポーリング

1500番台の1501から1510までの10台単位で、
次は1511から1520までの感じで登録を進め、

 1600番台 
 1700番台
 1900番台
 9700番台
    と進んいく。


遂には1500番台に戻り、延々と登録作業を繰り返す。

  これがオートボーリングだが、移動局側は状況を知る術がない。


 AVMに乗り始めた当初は、先に入った車を配車する先入り優先配車を実施していた。 したがって、登録直後が一番有利となり、かつ、登録直前にエリアに入るのが理想的。 いちいちエリアを出たり入ったりできないので、(稀に居たが)かわりに無線機を強制的にリセットさせて仮想移動する感じである。


5秒単位でどんどん登録するわけですから、1809登録後も後から5秒毎に続々登録してくるので、 リセットの精度の高低は大きく影響する事になるのです。


 周期的に訪れる登録のタイミングでのリセットは、その日の勝敗を左右する極めて重要な作業なのは言うまでもないが、5分20秒の定期的な周期なら問題ないものの、 オペレーターの話す時間等、で長くなるのは厄介だった。
その伸びる時間はサッカーのロスタイムみたいなもんで、時には12分以上かかったりする事はザラにあった。

 5秒間で10台単位でポーリングと記したが、下記の概念図のように、実際にポーリング用の時間は最初の3秒で 10台単位でのポーリングはこの3秒で終了している。残りの2秒はマイク対応時間だ。
 オペレーターはこの2秒のタイミングでマイクで喋る。喋れば喋るだけ次の10台のポーリングは遅れるばかりだ。また、移動局の応答できるタイミングもこの2秒枠。それらの頻度に応じて時間は伸びるので、失敗なくリセットのタイミングを計る技術が問われた。

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概念図
|−−−−−−−5秒間−−−−−−−− |

|−−−−3秒−−−−|@@@2秒@@@|

|各車ポーリング時間  |マイク時間   |

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失敗例は複数あるが、最も最悪なのが、リセットのタイミングを見失い、登録の瞬間にリセット(無線用語:かぶらせる)して登録すらできないのは、自らチャンスを封印する最も愚かな行為の大失敗と言える。 その失敗をする位なら何もしない方が遥かにマシなのだった。


一方で人気のないエリアは楽なのだ。

ライバルが居ない谷原や江戸川橋なんてエリアは安心して寝てられた。

1台しかいないと、滞留時間が99分でも配車になった。

しかし、オーダーがないと何もない。楽だけど何もないのは論外だ。
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だから、一か八かライバルが多数いる人気エリアに向かうのだった。


リセットの精度不良に伴う悪い例

虎ノ門で1809は待ってるにも関わらず飛ばされる場合。


オペ
「1847、1811、1797 以上3台は、谷町アーク車両課連絡 どうぞ」


なんて事が起きたら、どーゆー事か?


滞留時間が短い順から呼ぶので、1809は1811の後に呼ばれるのが順当だ。

しかし、配車にはならずに1797が呼ばれた。

つまり1797の方が滞留時間が短いと基地局の端末は認識していたという事になる。

1797の後に1809は登録されて有利のはずの1809が呼ばれない(配車にならない)のは
リセット技術の未熟さ以外の何物でもないわけだ。
逆に先に登録したにも関わらず滞留時間の短いと判断された京王1797は 「リセットが上手い。」 と言える。
悔しいパターンだが、1797ならまだしも、さらにその前に登録している1756とかに負けると具合が悪くなったもんです。


上記は例としておりますが、こんな事が、遅い時間の激戦区では頻繁にありました。

リセット技術の向上の必要性を強く感じはしたものの、精度を向上させる方法がわからなかった。




しかし、ある日


偶然に発見する事になる。


  続く
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2014.10.20

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